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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)499号 判決

被告人

山口留五郞

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人灘岡秀親の控訴趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。

第一点に対する判断

原判決は、被告人が起訴状記載のとおり第一、第二の窃盜の罪を犯したという事実を認定し、その証拠として第一の事実については原審公判廷における被告人の自白と山口八重の司法警察員に対する供述調書とを挙げており、その犯罪日時の点につき、右証拠のうち、被告人の自白によれば、昭和二十四年四月二十六日午前四時頃となつており、山口八重の供述調書によれば、所論のとおり同月二十七日午後八時からは二十八日午前六時半までの間となつていて、原判決は、その犯罪の日時が同月二十六日午前四時頃であつたという事実を認定しているのであるから、その犯罪の日時の点については、被告人の自白を信賴し、山口八重の供述を信賴しなかつた事実が明らかである。証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委せられているのであるから、犯罪の日時の点に関する右のようないくつかの証拠のうち、そのいずれを信賴するかは、裁判官の自由な判断によつて決すべきところであつて、かように裁判官が信賴し採用した証拠のほかに裁判官が信賴をおかず採用しなかつた証拠であつて裁判官が採用した証拠と一致しない証拠があるからといつて、裁判官の右の判断を目して事実の誤認であるということはできないのみならず、その日時が仮りに所論のように、四月二十七日午後八時から翌二十八日午前六時半までの間であつたことが眞実であつて、四月二十六日午前四時頃であつたという原判決の認定が誤りであると仮定しても本件犯罪は、その犯罪の場所、被害者窃取の目的物件等が全く同一であつて、事件の同一性が失われると認むべき事情は全く存しないのであるから、右のような事実誤認は、判決に影響を及ぼすべきものとは認められないなお或る犯罪事実全体を被告人の自白のみで認定するのは刑事訴訟法第三一九條第二項の規定に違反すること、もとより明らかであるがそうではなくして、犯罪事実のうちの一部ともいうべき日時のような点のみを認定するに当つて、被告人の自白を採用するような場合には、他はいわゆる補強証拠を必要とせず、被告人の自白のみにもとずいてこれを認定するも違法ではない、論旨はすべて理由がない。

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